早雲が10月27日に「Water EP」をリリースした。
タイトル通り「水」がテーマとして流れる、曲調は様々ながらも一貫した作品だ。
2ndアルバム「Reflection」を発表した昨年末にはすでにタイトルが決まっていた本作だが、満を持しての発売となった上、サブスクでの配信は行っていないことから気になっている方も多いいだろう。
自在に変容する水は、今作でどのような形を描いているのだろうか。
EP「Water」
2021.10.27 Release
『Water EP / 早雲』
All produced by BoNTCH SWiNGA
1.Intro -源-
2.Drop by drop
3.A drag on?
4.Skit -転-
5.Wilderness of sea
6.More deeply
All lyrics written by 早雲
All tracks & Produced by BoNTCH SWiNGA
Recorded at Studio246 KYOTO
Mixed & Mastered by Inoue Noriyuki
Artworks by CAMO(W.B.T.C)
雫が落ち、その水音がリフレインするイントロからEPは始まる。
曲目を見るだけでも水面から深部へ、一滴の水から海深くまで水の流れと深さが描かれている。
全体を通して挟まれる水温は曲が進むごとに水量が増していき、次第に水中深くへと飲み込まれていく。
「Reflection」リリース時に行ったメールインタビューでは、「今作に限らず『道』はキーワードなのかもしれません。」と語っており、「Water」を一聴した時も似たような印象を持った。
しかし何度か聞くうちに「Water」には、『運命』のようにより決定的で抗えないものを感じるようになった。
特別メールインタビューはこちらから↓
Drop by drop
「Water EP」収録曲の中で、唯一MVが公開されているのが「Drop by drop」だ。
イントロから続く雫の音から曲が始まり、流れのない水面に波紋が広がる。
人
交差する人
雑踏に飲まれ
この生を全う
行こう
さらに奥へ行こう
葛藤をアートに変える
旅に出よう
というラインを表すように、人里離れた静かな自然の中で自分と向きあう早雲の姿が映し出される。
揺るがぬイシに
深く腰掛け
水面に映る
我に問いかけ
一つずつ綴る
未来を紡ぐため
全ての過去が蘇る
はるかなる岩のはざまにひとりいて、といった風情である。
「一滴ずつ」というタイトルの通り、曲が進むうちに悲喜こもごも様々な感情や要素が色々な場所から雫のように降ってくる。
そしてそれは乾くことなく流れとなり、やがて広い海となる。多くの人々の心血を注いだ楽曲や行動がシーンを形成するのだ。
A Drag on ?
「A Drag on ?」は、勢いを増す水流を表すかのごとく高速なフロウに乗せて早雲の哲学が披露されている。
投じられた一石や
投げつけられた叱責も
肚の底に深く沈め
俺は俺を一手に担う積み重ねた実績も
そいつを大切そうに
愛でるだけの人生も
押し流して行ってきます行ったきり一度切り
道なき道こそ道と知り
向かう先はミステリアス筆は物語る
一所に留まらず
流れる水は腐らず
澱めばすぐ腐敗する
UMB優勝後にリリースした「The first day」でも垣間見えた、大きな出来事の後も初心を忘れず地道な日常や一滴一滴の努力をおろそかにしない姿勢は「澱めばすぐ腐敗する」という考えからくるものだったのだろう。
EPの中で唯一、和楽器のサンプリング音が使われている点にも注目したい。
「Reflection」ではあえて和楽器や日本的なサウンドを採り入れなかったそうだが、水がテーマの本作にはよく合っているし水流や風を感じる。
この痛みは通行料
本流を逸れた小川のせせらぎは
せせら笑い背に
確かな流れと化す 龍の如く
タイトルの「A drag on(少しずつ) ?」と龍(ドラゴン)をかけたレトリックも効いている。
トラックの終盤から水音は豊かになり「Skit -転-」へと続く。
雄大で広々とした情景が浮かぶようなビートに変わったかと思えば、また水音に変わり水流は海へと向かうのだ。
Wilderness of sea
未だ焦がれた場所に届きはせず
流れの最中 思い馳せる
から始まる「Wilderness of sea」は、海のように広く深く疲労困憊でも休みなく泳ぎ続けなければならない夢への道なき道を行く中で繰り返される苦悩や自問自答がブルージーに描き出されている。
水面に雫
流れ流れて果てまで
日が落ちる
追って追われて果てまで今も見る
醒めて見る夢の続きは?
早雲がhookで歌うのは珍しいが、やはり頭角を現すラッパーは声が良いのだなとしみじみと聞き入ってしまった。
音楽で名を残すことの過酷さを表したような広い荒野を生き抜く力強くタイトなフロウに対して、抑えたトーンのボーカルが競争や興亡の哀愁を感じさせる。
きっかけは何処にも転がってない
口先だけじゃ届かぬ願い
潮の満ち引き 俺の生き死にに関わらず
無慈悲に転がる世界
More deeply
深く深く水中にもぐる「More deeply」では、自分の世界に深く深く潜り言葉を紡ぐ様子がリリックとなっている。
もっと深く さらに深く
沈むように腰掛けて
探しに行く輝き
額にペンを押し当てて
目を瞑って手探りで
心の眼を抉じ開けて
イメージは沈んていった太陽を追いかけて
世間の波風 水面下
独自の波形を描く心電図のよう
”生”そのものが波形を描く
肌に纏う太陽
細胞を切り崩し
生を受ける言葉達は俺自身の生き写し/発見する原点 同時に終着点
始まったのがここなら ここに帰るが定め
底辺 同時に到達点
生まれのがここなら ここに還すが定め
身体の真ん中を通る一続きの流儀
これが澱んだなら 目指すべき場所はどこにも無い
身体の真ん中を通る一続きの流儀
これが澱んだなら もう帰るべき場所すら無い/「諦める」を通り過ぎたその先には何が出る?
やがて全て絞り切って
ひとりきりで痩せ細って
一曲分の一生を全うした後に
海の底に声を残し
天に昇り 雨となって降り注ぐ
もう一度
新たな一滴
「Drop by drop」では外側から水面を眺め、「A Drag on ?」では水流に乗り、「Wilderness of sea」では荒波に揉まれていたが、実は豊穣の海は自身の中にあったのだ。
全て聞き終わった後に改めてジャケットを見てみると水流の奥に地蔵菩薩のほほえみが認められ、
困難な道も頂上から見た素晴らしい景色もすべてが手のひらの上だったかもしれないという気にさせられる。
あ
苦悩も喜びも浮世のすべてを飲み込んで、今日も水は滔々と流れる。