京都の闘将、早雲が2ndアルバム「Reflection」をリリース

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早雲は京都を代表するラッパーの1人だ。以前もこのサイトで取り上げた彼が10月25日にセカンドアルバムを発売することが発表され、ティーザーも公開された。

早くアルバムを聞くのが待ちきれないが、ウォーミングアップができるようこの記事では動画を交えて彼の世界を覗いていこうと思う。

早雲

早雲についての以前の記事はこちら

早雲が2nd ALBUM「Reflection」をリリース

2020年10月25日、早雲の2枚目のアルバムとなる「Reflection」が発売されることが決まった。

早雲reflection

ファーストアルバム「Say to See」は全曲早雲によるセルフプロデュースだったが、ReflectionはBoNTCH SWiNGAがトラックを手掛けており、早雲の世界観をより多彩に色付け広げるような1枚だ。

reflection曲順

7曲目の「Localist」では同じW.B.T.C/ZERO-Gravityの語歩da K.T.Aと、11曲目の「MIC & LIFE」ではboldlymusicのDUSTY-Iと共演している。

WBTCオフィシャルストアはこちらから

トレイラー動画ではアルバム全曲が視聴可能だ。

全曲フルで聞きたくなるがところどころ映像が写っているのが気になる。まだ公開されていないMVもあるので、どんなMVになっているのかとても楽しみだ。

9月28日には、2曲目の「Crossroads movie」のMVがYouTubeで公開されているのでアルバムが待ち切れないヘッズはぜひ見て欲しい。

Crossroads movieというタイトルの通り、古い映写機にフィルムをセットして映像が映し出されるところから始まる。

イントロのブルージーなギターは、映画「Crossroads」(1986年)のサウンドトラックの中の「Feelin' Bad Blues」にも似ているように思うが、サンプリング元は何の曲なのだろう。

映像が写しだされている和紙のようなテクスチャは「令和二年夕刻」でも見られたが、我々リスナーが早雲が紡ぐ物語を目にしていることの暗示だろうか。

辞める理由は幾らでもあるが

続ける理由は一つしかない

俺は俺を描かせればまるでスピルバーグ

神も仏も無い 一本の道

この無神論は信仰の域

この曲の物語は早雲1人だけのものではなく、曲中に何度も出てくる「奴」というかつての仲間にも向けられているのだろう。

これまで自身や仲間が歩んだ音楽人生をロードムービー形式で語る終盤、もう一人の自分が部屋を出て、たくさんの人々が歩む足元を写してMVは終わる。

2007年から10年以上のキャリアを積み重ねた彼の、これまでの出会いと別れに馳せた思いの一端が伺えるような一曲だ。

MV/Lyric video第2弾!「懊悩」が公開(10月7日追記)

「Reflection」の発売を記念してMVとリリックビデオを4周連続で公開している早雲だが、10月5日には第2弾となる「懊悩」が公開された。

アルバムでは4曲目に収録されている「懊悩」がどんな曲かは映像を見て確かめて欲しい。

「懊悩」とは、深く悩みもがくさまのことを言う。

チルなサウンドから始まり画面いっぱいに現れる夜を行く電車はこれから家へ帰る人、これから仕事や出かけに行く人を同じ車両で運んでいく。

気持ちや欲望の変化を引いては返す波に例えると、早雲がマイクを片手にパフォーマンスをしている様子に移る。

酒・煙・レコードとくれば言わずもがな舞台はクラブだ。

早雲は折に触れ、地元やアンダーグラウンドシーンを大切にする発言をするが、これまでのラッパー人生の中でたくさんの例を目にしてきたのだろう。

地元を捨て目先の名声を追ったり、実力はあるのに中々正当な評価がされなかったり・・・もしかしたら悲しい結末を迎えた人も少なくないのかもしれない。

今日は今日 365

色とりどりの風 時折の晴れ

宵越しの雨 見送る木陰

お気の済むまで

1年の中には様々な出会いや別れが訪れる。悲喜こもごもを淡々と描写することで、却って早雲にとってHIPHOPが空気のように生活や人生そのもののような存在であることが強調されている。

夢をあきらめたことがある人、様々な思いを胸に今も夢を追っている人にも深く刺さることだろう。

第3弾「Localist feat. 語歩da K.T.A 」のMVが公開!(10月13日追記)

そして10月12日夜には、京都出身で現在は滋賀を拠点に活動している語歩da K.T.Aを客演に迎えた「Localist」のMVが公開された。

渋いブーンバップサウンドにローカルな景色、所せましと並ぶレコードが映り早雲のバースが始まる。

勝ち組負け組のメカニズム 花は深く根を張った枝につく

遠回り 半生 描き写すブルース

都の風が肌にへばりつく

初手から彼らしい世界観のワードが満載だ。

最初のバースは道路の上の歩道橋で撮られている。1号線五条通で滋賀と京都の合流地点。だと指摘するコメントがあったがなるほど。

地元京都でずっと活動しつづけている早雲と、滋賀を拠点にしている語歩da K.T.Aが交わることを表しているのだろう。

ルート1から161 地域密着

裏付ける意志表示 

フットプリント付ける道なき道

フロンティアスピリット 切り通し

国道1号線と161号線が接続するのは滋賀県大津市と京都市山科区との境目の近くだ。

ただ、早雲と語歩da K.T.Aが歩むのは道なき道だという。前進を続けながら自分たちのスタイルのHIPHOPという軌跡を作り上げていくのだ。

抜き身の刃 磨いてくる

だが帰るべき鞘は地下に眠る

ラッパーである以上、培ったスキルを武器に様々な活躍を見せてもアンダーグラウンドがホームだと示している。

以前も書いたが、早雲は根となる部分を大切にするアーティストだ。それは、自分が生まれ育った地元や原点であるアンダーグラウンドシーンへのリスペクトなど、色々な意味が込められているのだろう。

それは語歩da K.T.Aも同じようで、

嘲笑の中 張り上げる声は

遠吠えとは異なる咆哮

仰げば尊し わが師の恩は

喉元過ぎても熱忘れず

高みの見物決め込む 裸の王様の対極で

首振り続け でっかいスピーカーの前では一途

と、世の中の流行に惑わされずに自分が信じたものを大切にする姿勢をリリックにしている。

曲の終盤、画面がカラーに切り替わると2人の掛け合いが始まる。個人的には語歩da K.T.Aの「田舎こそのんびりしてられへんよな」というラインが好きだ。

最後のhookが終わるとおそらく早雲は京都側、語歩da K.T.Aは滋賀側で進んでいく。次のステージで合流するまで、それぞれの持ち場で鍛錬を続け地固めをしていくのだろう。

やはり今回のアルバムは、「道」がテーマなのだろうか。早雲のこれまで、現在、これからを知ることができそうだ。アルバム全編を聞ける日が待ち遠しい。

第4弾「Hands -Finger play song-」〜「おやすみの後に」が遂に公開!(10月21日 追記)

「Reflection」の発売を記念して、MVとリリックビデオの毎週公開が始まってから1ヵ月弱。ついに第4段の「Hands -Finger play song-」〜「おやすみの後に」のビデオが公開された。

MVというよりかはリリックビデオに近い作りだが、遊び心や工夫が詰め込まれ見ごたえのある仕上がりになっている。

なんだか郷愁を誘うコーラス音に、シンバルの音が時折波紋のように広がる。

早雲が手のひらを閉じると、「Reflection」のアルバムジャケットの背景がパズルのように組み合わさりながら現れる。

「Hands -Finger play song-」は曲のタイトル通り、リリックが手指の動きであらわされているのが独特だ。

右手にペン 左手は固く握り

溢さないように話さぬ契り

と、おそらくリリックを書く風景から曲が始まる。

右にも左にも逸れぬ導き

俺が俺を保つための儀式

息遣いに聞き耳立て発芽

 

漢文を開いたかのように美しく揃ったラインだが、中身にも注目したい。

リリックを生み出すことは、自分の心や芯となる部分を自分で確認する作業に近いのだろうか。

右にも左にも、とはどんな意味を持つのだろうか。

政治思想ともとれるし、日本語ラップシーンのあらゆる場面にもあてはまりそうだ。

仏教において中道は、「相反する立場の中間地点ではなく、対立を超えること」を意味する。

過剰に自分を追い詰めるでもなく、快楽に身を任せることもなく堅実に自分のすべきことをしていく不苦不楽の考えは早雲のイメージに合っている。

もちろんこれまで様々な苦労があったはずだが、極端なストイシズムに酔ってしまっても本質からはずれてしまうのだ。

「開いた5本の指 何かを掴むため~」からフィンガープレイが登場する。

を遠ざけ」で指を折り、「恋人を遠ざけ」で小指を折る。それで残った三本の指で「三日坊主で終わるならそこまでと」とライムを表現している。

ラッパーを志した当時の心象風景を描写しているのだろう。

その後も

弱さゆえの中指をおろし

あえて身を置く孤独に飲まれず

「この指とまれ」を押し殺せば

大丈夫全ては繋がってた

(hook)

Hands 全てはここにあるはず

握った手の中に閉じ込めたはず

Hands 両手に幼子の手を引く

どこからともなく聞こえる声

「欲深きはその身を滅ぼす」

知ってるよ それでも掴みにいくのさ

と、「手」を使った歌詞表現が続く。

2ndバースに入ってからはラッパーとしてのキャリアや人生を描いていく。

きらびやかな表舞台と、1人深く悩む早雲の姿が対照的だ。活動を続けながらも葛藤していく早雲。

上にも下にも動けないまま

地下深き種の芽は出ないなら

余韻だけを耳に残し

引き際の美学 震える握り拳

と、自身の進退について深く悩んでいたことが伺えるが、その後の展開に注目したい。

始まりはゼロ(拳) 勝気な目と

走り書きのメモで 気取る一人立ち(人差し指)

クルーの旗を真ん中に立て(中指)

三十過ぎて何度目の正直?(薬指)

いつしか恋人は妻になり(小指)

人の親になり 子守唄歌いだし(親指)

そう、最初のバースで全てを振り払ってラッパーとなった経歴とシンメトリーに展開されていくのだ。

そしてこれからも早雲は自分の夢をその手に掴むために挑戦し続ける。

仕掛けが随所に散りばめられたリリックで、聞き終わった時には「おぉ~」と感心してしまうが技術が浮くことなく心を打つのはやっぱり早雲自身の人生が乗ってるからだろう。

ビデオには、これまで公開されてきたMVやリリックビデオの場面が出てくる。

「Crossroads movie」の小部屋のシーン、懊悩の煙とステージのシーン、Localistの歩道橋のシーンなどだ。

また、終盤は「おやすみの後に」のショートバージョンの映像となっている。

打って変わって暖かい雰囲気で、わが子へのメッセージを綴る曲だ。

自分が夢を追って歩んできたからこそ、子供たちの夢を応援する優しい視線が目に浮かぶようだ。

夢を追い続け親になり子を歌う、「Hands -Finger play song-」~「おやすみの後に」のビデオは1人の人間の物語を写しているのだ。

時事を反映した楽曲もクオリティが高い

コロナ禍で大きな混乱の中にありつつも、政府の方針は右往左往して多くの人が不安を感じていた4月に発表された「令和二年夕刻」では、ラッパーとしてさすがの貫禄を見せている。「Reflection」の最後にふさわしい一曲だ。

冒頭の君が代や「憂国の士」というフレーズで、すわ愛国唱歌か?と身構えずにぜひ最後まで聞いて欲しい。生まれ育った国を愛しているからこそ、自立性を欠き斜陽化した国家の現状を憂いている事が分かる。

すでに心停止 血の通わなくなった”シンゾウ”

握られたハート トランプのカード

選ばれた方もさることながら

のさばらせた俺らも猿ほどの頭

パンデミックよりもさらに前

とうに脳に毒は回ってたってことさ

シーンが拡大して市民権を得るためには色々なタイプのラッパーが必要だがメジャーシーンへの進出がかつてなく進んでいる今、早雲がこの試みをしてくれたことに最大限の拍手を送りたい。

ちなみに、今回アルバムにも参加しているDUSTY-Iのリミックス版もある。

WBTCロゴの「We Built This City」が曲に深い意味を与えている。社会や国を作っているのは、他の誰かではなく我々一人ひとりなのだ。

この曲を聴いた時、とある本の一節が思い出された。「プリンシプルのない日本」という、白洲次郎の文章や対談をまとめた1冊だ。

曰く、「現在の日本の復興などということは、言わばクリスマス・ツリーみたいなもので、飾り付けて豆電気がついて色々のものがぶら下げてあって、見ると本当に綺麗なものだが悲しい哉あのクリスマス・ツリーには根がない。あの木は育たない。あの木はきっと枯れる。本当はツリーでなくてただの枝みたいなものだから。」(プリンシプルのない日本「八方美人が多すぎる」より)

現在我々が直面している問題は枯れゆく枝葉で、これまで賛美し追い求めてきたものは果実ではなくただの飾りなのかもしれない。

偶然というべきか、2019年末に戦極RHYMERS HIGH2対ミメイ戦での早雲のターンにはこんなバースがある。

枝も好きなように伸びればいい

花も好きなように付ければいい

だけど地下に根っこがない奴はレぺゼン語るな中指立てるぜ

フリースタイルでの一節ではあるがこれまでバトルシーンでも優れた実績を残し、音源でも自分のスタイルを実証している早雲のスタンスを端的に表している。

彼は表に出すものにこそ強い根や幹が必要だと考えている。あとシンプルに、こんなに痺れるバトルの導入はあるだろうか?

真をつく言葉はバトルでも発揮

フリースタイルバトルの話題が出たからには、早雲のこれまでの実績にも触れないわけにはいかないだろう。

この記事でも取り上げたが、早雲は地元を中心にしたアンダーグラウンドシーンで活躍しつつもバトルの強さやラップの安定感は全国トップクラスだ。

2018年末に行われた戦極CrossoverⅢでの一戦。

「アングラがそれっぽい事を言ったら上がる時代を終わらせに来た」というがーどまんへの早雲のアンサーが大変奮っている。

俺はレぺゼン アングラ

それっぽいじゃなくまさしく「それ」/

しとけよ敵前逃亡

お前は一瞬でKO

再生数稼ぐだけのYouTuberだろ

この早雲のバースは全編通して聞いてほしいほどパンチラインに溢れている。

「ブレない芯の強さ」はありきたりなフレーズだが、早雲ほどそれを体現しているラッパーは多くないだろう。

戦極MCBATTLE第16章関西予選対MC frog戦は、名試合として挙げられることが多い一方でHIPHOPや日本全体のジェンダー観がまだ発展途上なことも伺える。

もちろんお互いにリスペクトを持ってバトルに臨んでいることは分かる。

しかし、フリースタイルダンジョンなど他の女性ラッパーがバトルに登場する時も同様に、本人の意思とは無関係になぜか女性・母親・娘・性的な要素という面がクローズアップあるいは同化され、ラッパー個人VS”フィメールラッパーまたは女性代表”という構図になって個人の性格が見えてこないことも往々にしてある。(徐々に変わりつつあるが)

コンプラ配慮ではなく、物事の本質を見抜くラッパー早雲だからこそできる個人対個人の戦いを楽しみにしたい。

口喧嘩祭×KOKでのセミファイナルでは、熱い闘志を内に秘めて鋭い言葉を撃つ早雲を見ることができる。

客に合わせてスキル磨くんじゃねぇ 自分でやってきたことを分からせるだけだろ/

客に合わせて熱い言葉を吐けばHIPHOPか?/

韻踏むためにラップしてる 俺は俺のラップのために韻を踏むんだよ

これが刺さらないヘッズっているのだろうか?と勘繰りたくなってしまうほどパワーを持った言葉だ。

京の都に早雲や居るらむ

今回、早雲の新アルバム「Reflection」や楽曲、バトルについてご紹介した。

早雲は音源でもライブでもバトルでも、発信するメッセージは一貫性があるだけでなくその柱は太く頑丈だ。

11月にはUMB2020へも出場する。2019年大会では準優勝だったが、それはまぐれでもなんでもない。ひとえに早雲が足場を固めて上ってきたことの成果だろう。

UMBはリキッドで開催される予定だが、この調子ならそう遠くない未来にライブでReflectionの楽曲が聞けるかもしれない。

当サイトでは2nd.アルバム「Reflection」リリース記念として特別インタビューを行った。
読み応えバツグンで、さらに早雲の人となりが濃く映し出されているのでチェックだ。

【独占インタビュー】早雲が2ndアルバム『Reflection』、自身のHIOHOP観を語る!

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