ラッパーが身に着けるアクセサリーは、単なるファッションだけでなく自分自身やスタンスを示すためにも機能する。
音楽のジャンルやルーツを表すため、シンプルに自身のセンスや趣向を表現するため、そしてあえてアクセサリーをつけないことを選ぶラッパーもいる。
身に着けるアクセサリーは曲中にもよく出てくるが、フレックスの材料として機能するのは本場アメリカでのHIPHOPカルチャーや歴史と切っても切り離すことはできない。
本記事では、
- なぜHIPHOPではアクセサリーによる自己表現がよく見られるのか
- 日本のHIPHOPアーティストはどんなアクセサリーを身に着けているのか
についてご紹介していこう。
HIPHOPとアクセサリーの関係性
日本に限らず、HIPHOPとアクセサリーは縁が深い存在だ。
HIPHOPを好きになった時代は人それぞれ違っても、リスナーであれば様々なラッパーと彼等が愛したアクセサリーやジュエリーの数々が思い浮かぶだろう。
アクセサリーを含む装飾品はファッションや好みというだけでなく、時として時代性やバックボーンへのリスペクトとしての意味を持つ場合もしばしばあるし、ゲットーでの慣習がカルチャーとなった例もある。
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最近ではLil Uzi Vertが25億円相当のピンクダイヤモンドを額に埋め込んだこともその後の動向を含め話題になったが、日本でもその人を象徴するようなオリジナルのジュエリーを身に着けることもすっかり一般的になった。
しかし、HIPHOPがブロックパーティの域を越えて本格的に音楽ジャンルとして始動しはじめた1970年代には、ストリートでは後のHIPHOPファッションに繋がるスポーティーな服装をしていても、メジャーなステージでの音作りやファッションは当時のディスコカルチャーにかなり寄せたものだった。
もちろん所謂ブリンブリンなジュエリーやアクセサリーはこの時点では登場しない。
The Sugarhill Gang「Rapper's Delight 」のビデオを見ても分かる。
今日、我々が想像するHIPHOPファッションが確立されていくのは1980年代に入ってからのことだ。
ゴールドチェーンの流行
ゴールドチェーン自体は以前から多くのHIPHOPアーティストが身に着けていたが、細くシンプルなものが主流だった。
Nas、De La Soul、RUN DMC、LLcoolJ、public enemy、Beastie Boys、Big Daddy KaneなどHIPHOPをメインカルチャーに押し上げた立役者たちがこぞってロープタイプのゴールドチェーンを身に着けた。
スニーカー・スポーツブランドのセットアップ・カンゴールの帽子・カザールの眼鏡などと共にストリートファッションとして大流行した。(その時Public Enemyのフレイヴァーは時計をぶら下げていた。そして今も)
時代が進むにつれて、ゴールドチェーンはよりファット(太い)で派手なものが好まれるようになる。
Eric B&Rakimのように、ゴールドで作られた大きなペンダントトップやメダリオンもよく見られるようになっていく。
メダリオンのモチーフは、$マークや自分やグループの名前、クルー名、レーベル名、高級車のエンブレムなど様々だったが、時同じくして公民権運動の再解釈がすすめられていたこともあり、アフリカ的なモチーフも好まれた。
The Kool HercがHIPHOPジュエリーの概念をシーンに取り入れたとする説もあるそうだが、彼も自身のルーツであるジャマイカのラスタカラーのアクセサリーをよく身に着けている。
HIPHOPジュエリーの中でも、特にネックレスに重要な意味がもたらされていた時代でもある。
その後、HIPHOPの人気が高まるとともにラッパー達の高級志向も加速していった。
90年代半ばには、Sean Combsが毛皮・クラシカルなスーツなどをまとい洗練した「ゲットーファビュラス」へと昇華させる。
ただハイセンスでラグジュアリーなだけではなく、シナトラやアルカポネなど古いギャング的な要素を取り入れたファッションは現在でもよく見られるコンセプトのひとつだ。
その反動もあってか、90年代後半から2000年代前半まではルーズなファッションが流行する。オーバーサイズのフラッシーなシャツとボトムスにティンバーランド。
日本ではこのタイミングにHIPHOPが流行り出したので、馴染みの深い方もいるだろう。
チェーンは80年代と比べて細く長くなったが、より高価なプラチナ・ホワイトゴールド・ダイヤモンドなどで作られるように。
十字架や聖母マリアなど、キリスト教的なモチーフも流行した。
また、ラッパー自身が自身のブランドを持つ流れが始まったのもこのあたりの時代だ。
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2010年代以降はスリムなシルエットのファッションが主流になっていく。それに伴いボリューミーなファットチェーンよりも、キューバンリンクなど短くてシンプルなチェーンが好まれるようになった。
TRAPやラグジュアリーストリートファッションの流行により、トップのデザインバリエーションも格段に増加。
アニメや映画のキャラクターをモチーフにしたキャッチーでポップなトップを付けるラッパーも増えている。
ピアス
男性ラッパーたちがピアスをする姿を見かけるようになったのは、90年代後半からだろう。
大きな一粒ダイヤのピアスか、小さめのシンプルなフープピアスを付けるかの2パターンが多かったが、現在ではそれぞれ好きなデザインのピアスを身に着けている。
日本の男性ラッパーでも、ZORNやLEXなどがよくピアスを付けている。
HIPHOPとピアスにおいては、女性ラッパーの方が深い関係性を持つようだ。
よくMVやパフォーマンス映像などで、女性のラッパーがこのような大きなフープピアスを付けているのを目にしたことがあるだろう。
実は、大きなフープピアスや竹の模様がついたバンブーピアスはアフリカがルーツで、黒人やラテン系の女性にとって差別や抑圧への反抗と自立性のシンボルでもある。
Salt-N-Pepaもゴールドチェーンと大きなフープピアスで、自らのアイデンティティを誇りを持って示している。
HIPHOP黎明期から2021年に至るまで、このアイコニックなフープピアスを身に着けた女性ラッパーの名を挙げようとするとキリがないほどだ。
LL Cool JのAround The Way Girlには、黒人女性の美しさへリスペクトを捧げるこんな一節がある。
I want a girl with extensions in her hair, bamboo earrings, at least two pair.
俺が欲しいのは、髪にエクステを付けていて、バンブーピアスを2セット以上持っているような女の子
HIPHOPではないが2016年Bruno Marsの「Chunky」でも、同様の表現がある。
Ooh, chunky Lookin' for them girl with the big ol' hoops/Girl, you better have your hair weave strapped on tight
可愛い君、大きなフープピアスを付けた子を探しているんだ/(朝まで踊るから)カールのかかったエクステはしっかり留めておいて
グリル
グリルはゴールドやダイヤなどをあしらった歯につけるアクセサリーのことで、多くのラッパーやHIPHOPアーティストが成功の証しとして身に着けている。
そのルーツは1980年代前半のアメリカ・ニューヨークだ。
移民の多くが経済的困窮にあえいでおり、虫歯の詰め物として一番安かったのが金だったことに由来する。
ブロンクスなどの地域に住んでいた有色人種が虫歯治療後に金歯を入れていたことが、やがてファッション的な意味を持ち始める。
グリルはラッパーらの成功と、自分たちが育ったバックグラウンドの象徴でもあったのだ。
ひと時は流行が落ち着いていたが、近年またにわかに流行り始めている。
時計
ラッパーから最も愛されてきた時計といえば、なんといってもロレックスだろう。
シーンに広めたのは2pacとThe Notorious B.I.G.で特に2pacはロレックス好きで有名で、仲間にプレゼントすることもあったそうだ。
Nas、Warren G 、Jay-Z など錚々たる面子が後に続き、ロレックスを成功の証しとして曲中にドロップしていった。
ロレックスを愛する者同士でも、カスタムする派とそのまま派に分かれるようだ。
Travis Scott - Watch (Official Audio) ft. Lil Uzi Vert, Kanye Westでは、実用派のLil Uzi Vertとゴージャスにカスタムする派のKanye Westそれぞれの主張が見えて面白い。
ラッパー愛用のネックレス
HIPHOPとアクセサリーの関係について分かったところで、ここからは日本のラッパーが愛用しているアクセサリーをご紹介していこう。
JP THE WAVY
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JP THE WAVYがAlex Moss New Yorkにオーダーしたネックレス。
コロナの影響で、当初の予定よりも1年遅れただけに愛着もひとしおの様子。デザインは「LIFE IS WAVY」のジャケットにもなった自身を模したエイリアンのようなキャラクターだ。
ちなみに、Alex Moss New YorkはTyler, The CreatorがBETで着用して話題を集めたネックレスも手掛けている。
JP THE WAVY入魂のDripは、「WAVEBODY」や後程ご紹介する「GILA GILA」のMVからも見る事ができる。
LEX
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つい先日フレックスな投稿をしていたのがLEXだ。
AVALANCHEで約90万のゴールドチェーンを買う様子が動画でアップされている。
なんとも景気のいい姿だが、LEXは値段に捕らわれているわけではない。
あまり有名ではないアジアの前衛的なアクセサリーブランドや、リブランディング後のスワロフスキーをいち早く身に着けるなど、フレッシュなアクセサリーとハイジュエリーを柔軟に取り入れて自分のものにしている。
AK-69
AK-69が身に着けているメダリオンネックレスは、所属するレーベルDef Jam Recordingsのロゴを象ったもの。
プロデュースはAVALANCHE、制作はアメリカで多くのセレブが愛用しているICEE FRESH & COが担当した。
ロゴや枠部分はすべてダイヤモンドがセットされており総額は数百万円、まさにHIPHOPジュエリーだ。
こちらのライブでも着用している。
ZORN
クロムハーツ愛好家として有名なのがZORNだ。この写真で着用しているネックレス・ブレスレット・指輪・ピアスは全て私物。
インタビューではクロムハーツが好きな理由について、「格好いいから」「どこか鈍く重厚でソリッド。存在そのものに惹かれます。」と語った。
かつて「オーセンティックなHIPHOPが好き」と明かした彼らしいスタンスだ。
「Lost」の中にも、
クロムハーツから連絡 ベンツを停めてる玄関
というラインが出てくる。(MVでもクロムハーツのチェーンが確認できる)
ラッパー愛用ブレスレット
Red Eye
Red EyeはVersace好きで知られているが、こちらで着用しているのもVersaceのアイコン メドゥーサ ブレスレット(53,900円)だ。
ちなみにネックレスも同じシリーズのアイコン メドゥーサ ネックレス(69,300円)だ。
古くは2pac、そしてWiz Khalifa、A$AP ROCKY、Migosと名だたるラッパー達に愛されてきたVersace。
WILYWNKA
WILYWNKAが色々な場面で付けているのは、 Tiffany&Co.のリンクブレスレットだ。
ティファニーのハードウェアシリーズの中でも人気の高い製品で、店舗での在庫も僅少なようだ。
日本のラッパーでティファニーを着用している人はそれほどいないので、ネットでもどこのブランドの製品か探しているファンの声が多く見かけられた。
「油断大敵」のMVでも着用している。
時計
YZERR
https://twitter.com/yzerr_official/status/1110529036860575744?s=20
「手錠からRolexにChange」とすごいパンチラインがキャプションについているが、これは過去の楽曲B.H.Gからの一節だ。
逮捕状から契約書
手錠からRolexにChange
パクられた昔からマガジンページ
購入したTRAX TOKYOの製品ページには、「ロレックス デイデイト40 フルダイヤモンド/580万円」と記載されていた。
YZERRはなんと一括で指輪と一緒に購入したそう。
時を経てのリリックの有言実行に、以前からのBAD HOPファンも多いに盛り上がったようだ。
Awich
そしてなんといっても、フレックスな時計を語る上でどうしても外せないのがAwichだ。
GILA GILAでは、なんとリシャールの時計を身に着けていたのだ。
シーンや照明によって色が変わって見えるので、どのモデルかは分からないがRM037の新作だった場合価格は2,000万円を軽く超える。
これはおそらく日本のラッパーの中で最も高額な時計を付けていることになる。
女王の名にふさわしい1本だ。
今回の記事全般を通して、ラッパーがジュエリーやアクセサリーにお金を使うのはただの自己満足ではなく、自分という存在を表現するための手段のひとつであることが分かった。
今後日本ではどのようなフレックスが楽曲と共に楽しめるのだろうか。