【激動の米大統領選】日本でもヒップホップや音楽が政治面でパワーを持つ日が来るか?

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最初から最後まで波乱続きのアメリカの大統領選挙は、民主党のジョー・バイデン氏が勝利したとGSA(一般調達局)も認定した。トランプ大統領は一部の投票が不正されたと主張し訴訟問題に発展しているが、棄却あるいは取り下げに終わったのは35件。

その裏では諸手続きに必要な費用を支持者から献金を募っておりその文章に「献金の50%は陣営の債務返済に使われる」と記載されていたり、費用が安いか自治体が必要な費用を負担する州や群で再集計を行ったりと厳しい状況であることも伺える。

一連の動きは、日本でも連日メディアで取り上げられ、多くの人の関心を呼んだ。

アメリカの大統領選挙ではエンターテイメント界の著名人もかなり積極的にメッセージを出す。ミュージシャン、とりわけヒップホップアーティストの動向にも注目が集まった。

ミュージシャンと大統領選挙

政治と音楽の繋がりは古くからあった。ヒップホップはその成り立ちからも社会的・政治的な意味を帯びており、1980年にはHARLEM WORLD CREWが「Rappers Convention」でイラン・イラク戦争に言及。(政治的闘争を意義をとなえつつもイラクのやり方を批判するような内容ではあるが)

RUN-DMCは1983年のデビュー曲「It’s Like That / Sucker M.C.’s」でレーガン大統領の政策を痛烈にディスしている。他にも、パブリックエネミー、N.W.A、NAS、近年ではYGにケンドリック・ラマーなど枚挙に暇がない。エミネムもかつてブッシュ政権を批判する「Mosh」を、2017年のBETではトランプ大統領について厳しい口調で糾弾するフリースタイル「The Storm」を披露している。

2012年にはJay-Z、ヤングジージーなどがオバマ氏にキャンペーンソングを提供、2016年にはジョーイ・バッドアスが「LAND OF THE FREE」、ロジックが「BLACK SPIDERMAN」をリリース。どちらも多様性を尊重する曲だ。

コダック・ブラックがトランプ政権発足後の2017年2月に発表した「Tunnel Vision」のMVには、トランプ支持者と思われる「MAKE AMERICA ''HATE'' AGAIN」と書かれたキャップを被った白人が出てくる。

もちろん、政治的思想は個人の自由なので共和党を支持するラッパーもいる。

カニエ・ウエストはトランプ支持から一転し自身が候補として立候補したが、これには共和党が関わっていると囁かれている(本人は否定)。アジリア・バンクスはトランプ大統領の対企業への姿勢を評価しているが、レイシズム的な発言が度々問題となっている。

アイス・キューブが原案し、トランプ大統領側が巨額の予算を提示した「プラチナプラン(黒人の地位向上についての公的な制度改革や雇用の創出)」を理由に指示を表明したアイス・キューブ、リル・ウェインなどのレジェンドもいる。(この2人には税制面や陰謀論が真の理由ではないかとする意見もあるがここでは割愛する。)

上記の楽曲はBLMや今回の大統領選挙で注目されたものも多いが、全てのラッパーが政治的意見を表明してきたわけではないし、音楽全体としてはメジャーな表現方法であるとは言い難い面もあった。

女性アーティストの政治的意思の表明

NETFLIXで公開されたテイラー・スウィフトの「ミス・アメリカーナ」というドキュメンタリーからもそれが伺える。

彼女はカントリー歌手としてキャリアをスタートさせた、カントリーの曲が支持されているのは主にアメリカ南部。つまり、保守的な傾向が強い共和党支持者の多いエリアだ。

同じくカントリーポップスの分野から広く活躍したディクシー・チックスが、ブッシュ大統領のイラク戦争への批判を行ったことは大問題に発展し激しい弾圧を受け、グループ自身のキャリアにも大きく影響した。音楽業界にも影響を与え、その後発売予定だったマドンナの「American life」はMVの内容の一部変更を余儀なくされる。

そういった背景や、事務所から「いい子でいろ」と言われてきたことがプレッシャーとなっていた彼女は公の場で自らの政治的思想を語ることは無かったし、質問されても「私は若い女性だから、政治よりも恋愛の話をした方が・・・」と流してきた。

この一連の動きは、日本に暮らす人にとっても他人事とは思えないだろう。

しかし、テイラーは自身のセクハラ裁判、女性の権利をないがしろにする共和党マーシャ・ブラックバーン議員がテネシー州で中間選挙に出馬した事などを受けリスクを取り自身の意見をはっきりとさせることを選択する。自身の楽曲でも寛容と愛をより強いテーマにするようになり、「Only the young」をキャリアで初めて政治公告に使われることとなった。

先述のディクシー・チックスもディクシー(南部)が奴隷制を肯定し南北戦争に繋がった歴史を連想させるとして、「ザ・チックス」に改名。人種や性自認に関する差別に反対する「March March」を発表している。

BLMで白人の特権と黒人が日々置かれているリスクについて、かなり強い口調でコメントを出したビリー・アイリッシュも10月末に開催されたストリーミングライブで、ファンに投票をするよう呼びかけた。

かねてより民主党支持を明らかにしてきたアリアナグランデは、投票日を目前にして「Positions」のMVを公開。

曲自体は一見するとラブソングのようだが、「Switchin' them positions for you」というフレーズと、女性大統領になった姿が話題を呼んだ。

MVに登場する側近の多くは女性で、有色人種、アジア人、LGBTQと思われる人々が集まって会議を進めている。アリアナ自身もミニスカートにリボンで執務に励み、7月4日の独立記念のお祝いの花火をホワイトハウスから眺めている。

有色人種、女性初の副大統領の誕生

「Posisons」の世界が夢物語ではないことを現実が証明した。

カマラ・ハリスという女性初の副大統領が誕生したのだ。

カマラ・ハリスはジャマイカ出身の父、インド出身の母を持つアジア系黒人女性だ。

カリフォルニア州司法長官、カリフォルニア州の上院議員を経て副大統領となった。伝説的ともいえる演説を今一度見ていただきたい。

このスピーチにはたくさんのメッセージが込められている。

有権者や選挙に関係する人々への感謝、アメリカの民主主義について、ジョー・バイデンについて、自身の家族について、これまで平等のために戦ってきた女性たちへの思いが語られている。

それを象徴するかのように、ハリス氏が身に着けているスーツの白は女性の政治参加を意味する色という意味を持つ。加えて今年はアメリカで女性が参政権を得てから100年という記念すべき年。

「民主主義は状態ではなく、行動である」という言葉は、公民権運動を指導したことで有名なジョン・ルイスの発言を引用している。

But while I may be the first woman in this office, I will not be the last. Because every little girl, watching tonight sees that this is a country of possibilities.

「私は(副大統領という)ポストでは初めての女性ですが、最後とはならないでしょう。全ての少女たちが、今夜、アメリカは可能性の国だということを目にしているからです。」

というフレーズは、2016年のヒラリー・クリントンの敗北宣言を元にしている。

And to all the little girls watching right now, never doubt that you are valuable and powerful and deserving of every chance and opportunity in the world.

「今見ている全ての少女たちへ、あなたたちは価値があり、力を持っていることを疑わずにいてください。そして、この世界の全てのチャンスや機会を得るのにふさわしいという事も。」

ハリス氏の演説の前に流れた登場曲はメアリー・J・ブライジの「Work That」だ。

There's so many-a girls I hear you been running
From the beautiful queen that you could be becoming
You can look at my palm and see the storm coming
Read the book of my life and see I've overcome it

Just because the length of your hair ain't long
And they often criticize you for your skin tone
Wanna hold your head high

Cause you're a pretty woman
Get your runway stride home
And keep going
Girl live ya life

「美しいクイーンになれるのに、たくさんの女の子が避けているの。
私の手のひらを見れば、大きな変化が訪れることが分かる

私の自伝を読めば、これまで打ち勝ってきたことが分かるはず
あなたの髪が長くなくても、肌の色を理由に批判してくる人がいても
前を向いていて欲しい。

だってあなたは素敵な女性だから。
家への帰り道もランウェイにして、歩み続けよう。
あなたは自分の人生を生きるんだよ。」

実はこの曲は、リリース当初はそれほどヒットしたわけではなかった。

2020年に入りカマラ・ハリスが8月の民主党大会でこの曲を使用し、勝利演説で再び流れたことでアンセムとなった。この部分以外も愛情がこもったリリックが満載なのでぜひ聞いてほしい。

言うまでもなく、何よりも大切なのはこれからだ。トランプ大統領を支持していたの人は保守系、レイシスト、陰謀論者だけではない。資本主義を重んじ国家の左傾化を懸念する社会主義国家からの移民や、大物政治家たちがこれまで目をかけなかったエリアに住む人、民主党の税制改革に反対する富裕層なども含まれているのだ。

アジアの政治と音楽

アメリカ以外にも、音楽を通して政治的なメッセージを表明するアーティストはたくさんいる。

例えば、台湾ではフレディ・リムというメタルバンドのボーカルが日本の国会議員に当たる立法委員に当選し、歴史的・政治的なテーマの楽曲を発表している。

現職の議員が政治的思想を自ら歌にするというのは、日本ではまずお目にかかれない光景だろう。

また、台北市長の柯文哲氏は市長選キャンペーンとして春艷というラッパーとコラボした。

市長がトラップに乗せてライムしている。(柯文哲氏は両岸一家的な思想なので、議論の的になることも多い。)

これらは、2014年に起こったひまわり学生運動で「島嶼天光」という歌がプロテストソングとなったことが大きいという。

写真家であり多摩美術大学情報デザイン学科教授も務める港千尋氏は、自著「革命のつくり方」において「感性的な共通体験」をもたらすために歌や音楽が有効だと記している。もっともそれは、これまで軍歌やプロパガンダコンテンツがもたらしてきた効果であるとも言えるのだが。

ひまわり学生運動の半年後に香港で起こった雨傘運動では、BEYONDというバンドの「海闊天空」がプロテストソングとして浸透し2019年に激化したデモでも歌われていた。

 

香港のラッパー、Billy choiは現在でも教育や経済格差、警察について批判的な楽曲を発表しているが、香港への愛を歌った「香港地」という曲はYoutubeの公式チャンネルから見れなくなっている。

中国本土に目を向けると、共産党のお墨付きを得ている「天府事变」というクルーがデモの映像を使い、民主主義は暴力的で警察は平和のために尽力しているというメッセージを送っている。

ただ、対外プロパガンダ的な性格を持つ曲のためか表現は「子供のため」「輝かしい将来のため」などからも分かるようにかなりぼかしてある。「厳しい局面であることは分かるが」というリリックを入れるのは少し意外だった。意味するのはこれまでの制度から変化にとまどう事は分かる、くらいの所だろうが逃亡犯条例に対するデモに対して一定の理解を示しているともとられかねないフレーズだ。

ちなみに天府事变の曲はアメリカ政府を批判したいがゆえにBLMのデモ隊を応援する歌を作ったり、その中に「確かにそうかもな・・・」というラインが入っているので複雑で評価が難しい。

大きなマーケットである中国市場への配慮で、中国のやり方や自国の対中政策を批判する中華圏のラッパーは少ない。また、共産党は中国国内のコンテンツとして利用はしてもヒップホップに友好的とは言えない。所変わればまた違う配慮が生まれる。

韓国では、朴槿恵前大統領の弾劾訴追やLGBTQなどのデモに少女時代の「into the new world」が歌われているが、これは2016年に行われた梨花女子大学学生運動が発端だ。

政府の一方的な政策への抗議のために校舎を占拠した学生たちが、警察の突入の直前に互いに腕を組んでこの曲を歌った様子が大きな話題になり、特に若い世代にプロテストソングとして定着した。(これは朴槿恵ゲートと呼ばれる一連の流れにも繋がることになった。)

JUSTHISがPaloaltoと共作したCooler Than the Cool ft.Huckleberry Pは政府や経済、韓国の厳しい競争社会や経済格差について描写しており、Youtubeでの再生回数は80万回をオーバーしている。

我々も共感できる内容なので、ぜひこちらのサイトから翻訳を見て欲しい。

他国の政治や文化、社会的なリテラシーの進歩をうらやむ声もあるが、それは彼等が戦って勝ち取ったものなのだ。そしてポップカルチャーがエンパワメントしているのは、良い相互作用だと思う。

日本では今後どうなっていく?

日本にも、ECDをはじめコンシャスな曲を作るラッパーは少なくないが一部のヘッズが興味を持ってもセールスに繋がる例は少ない。アルバム曲とか、配信限定とか、ミックステープとして発表されることがほとんどだ。しかし、日本語ラップシーンの拡大や、人々の意識の変化などによりその状況が変わる可能性は十分にある。

SKY-HIは「キョウボウザイ」で安倍政権や国際情勢などをテーマにしている。

これに対してshow-kは「キョウボウジャナイ」という曲でアンサーを出している。

Dos Monosは台湾のデジタル担当大臣オードリー・タンのインタビューをサンプリングしたトラックにリリックを乗せている。

オードリー・タンは先述のひまわり学生運動発生時に入閣していなかったが、政府と民間団体との橋渡し的な役割を果たした。歴史に残る成功例となった大規模デモの裏には彼女の存在があった。情報の透明性を重要視し、ひとつのパイプとして役割を果たす大臣の音声をサンプリングしたこの楽曲は、発表当時「うちで踊ろう」に乗って批判された安倍元総理へのアイロニーとして機能した。

そういった意味では田島ハルコの「うちで暴れな」も無視できないだろう。

同時期に国際的なムーブメントとなったTokyo driftフリースタイルでは、政府の方針に物申すラッパーも多く登場した。

パーティソングや楽しいラップも大切だし、全てのラッパーがコンシャスである必要はないかもしれない。また、有名人だからといって何らかのエンパワメントを期待しすぎるのは人道的ではないとも言えるだろう。だが、政治は生活に直結するのだからポップなコンテンツの中にもっとポリティカルな話題があるべきだと思う。この人がこう言っているから!反対意見だからダメ!という対立ではなく、あらゆる人が時にユーモアを交えながら議論を進めていくことができるようになれば成熟した社会に繋げられるのではないだろうか。

それには我々リスナーがリテラシーを持ち、セールスや行動に繋げる事が重要だ。今後日本で大きなムーブメントが起きた時、そしてそれを思い出す時、感性の共有をもたらすのはどんな曲なのだろうか。

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